山男はやさしい

その人はやさしい山男でした。

田舎から家に帰るのに列車に掛け乗り、
ぎりぎりだったので座れませんでした。
弟は
「座れないから、次の電車にしたら」
「大丈夫。次だと30分待つから乗って行っちゃうね」
「気をつけて」
「うん、じゃあね」
列車が走りはじめ、終点で降りるので奥のほうに入り、
荷物を床に置いて立っていました。
なにげなくお腹をさすっていると前の席の男の人が
「どうぞ、座ってください」
えー、
「いいえ、大丈夫です」
「どうぞ、座ってください」
あまり勧めてくれるので、
「すみません」
と譲ってもらいました。なんで、急に譲ってくれたんだろう?
あっ、もしかして
……私のその日の格好は前に紐がついているワンピース、ペッタンコの靴、
そしてお腹をさすっていたから……
お腹をさすっていたのは、いっぱい食べてきたので苦しくてさすっていたのが、妊婦と間違われたのだろうか?
きっとそうだ!
得した気分と、申し訳ない気持がいり混じったままの二時間の帰り道でした。